・広瀬川橋りょうの施工監理について -vol 47


技術シリーズ
㈱ドーコン 東北事業部 常盤 博人

1.はじめに
本稿で報告する広瀬川橋りょう工事は、仙台市交通局が建設を進めている地下鉄東西線のうち、広瀬川に架かる橋梁(広瀬川橋りょう)と西公園を横断する高架橋(西公園高架橋)、起・終点側の箱式よう壁(広瀬川よう壁、西公園よう壁)を建設するものである(図-1)。
架橋地点である広瀬川を含めた青葉山周辺は、市のアイデンティティを保つ重要な景観的シンボルとして位置づけられており、各々の議論の結果、平成18年度に『広瀬川橋りょう他設計競技』が行われた。
この設計競技において、当社は幸運にも最優秀賞をいただく事ができた。その後実施設計を行い、現在は土木工事の施工監理を実施中である。
工事は終盤を迎え、平成25年2月現在は広瀬川橋りょう壁高欄・広瀬川よう壁・西公園よう壁を構築中である。
ここでは本橋梁の設計・施工を述べるとともに、これまでに私が携わった施工監理の概要について紹介する。

2.施工監理概要
広瀬川橋りょう工事には2つの工事がある。以下に工事概要・一般図・工程表を示す(図-2、表-1,2)。
施工監理業務については、通常の現場立会はもとより、新たな試みについては発注者・施工会社と施工計画案を立案し、状況によっては実物大試験等を

図―1 南上空からの鳥瞰(CG)

行い、その効果を確認しながら細心の注意を払い施工監理を実施している。

3.広瀬川橋りょうの施工
広瀬川橋りょうの特徴としては、主桁が三角形断面(傾斜の大きい斜ウェブ)であること、桁高が中央径間支間中央でh=1.5mと低桁高であることが挙げられ、主桁形状の施工精度の確保と狭隘箇所での作業性の確保が重要な課題であった。
張出架設の場合、型枠材には鋼製型枠材(型枠寸法300×1500mm)を使用するが、本橋では型枠寸法の大きな半透明板のスルーフォーム(型枠寸法600×1500mm)を使用した。
スルーフォームの特徴としては、型枠を転用する際、鋼製型枠に比較してコンクリート接触面の手入れが

写真1 張出架設施工(P2橋脚)
表―1 工事概要

容易であること、また半透明板を使用していることにより、コンクリート打設時の充填状況の目視確認が可能になることや、施工中の箱桁内部の照度確保が容易になることが挙げられる。
また、冬期には気温が4℃を下回る地域特性を考慮して、支保工や移動作業車全体を養生シートおよび給熱ヒーターを設置して、コンクリートの初期凍害および養生終了後の強度促進を妨げることのないようにした。

4.西公園高架橋の施工
西公園高架橋の特徴としては、場所打ち杭とコンクリート充填鋼管柱(以下、CFT柱)が鋼管ソケットにより同一線上に配置され、CFT柱と床版は箱式鉄骨によって接合されたラーメン高架橋である(図-3,4)。
施工監理において構造と意匠の両面から場所打ち杭の施工精度を確保するとともに、接合部の充填性を確保することが重要な課題となった。

4.1 場所打ち杭の施工精度
一連の構造の施工精度を確保するためには、最も施工精度の確保が難しい場所打ち杭の施工精度を向上させることであった。
施工精度については、床版~CFT柱下端で吸収できる施工誤差とCFT柱の通り芯がずれると非常に
目立つことから、場所打ち杭の水平偏芯量は50mm以内、鉛直精度は1/500以内と設定した。
実際の場所打ち杭の施工においては、水平精度に

図―3 西公園高架橋

ついてはあらかじめ設置した杭芯の確認を行うとともにオールケーシング(全旋廻機)据付時に定規鉄板を使用し水糸により杭芯の確認を行った(写真2)。鉛直精度についてはケーシング圧入時初期の精度に依存されるため、直角2方向より下げ振りおよびトランシットによって目視確認と行うとともに、ファーストチューブ圧入完了後に、デジタル傾斜計を用いて鉛直性の確認を行った。
このような細やかな施工監理を行った結果、場所打ち杭の水平偏芯量は最大で29mmに抑えることができた。

写真2 杭芯水平精度確認

図―4 CFT柱接合部(上端・下端)

4.2 CFT柱実物大試験
ソケット鋼管~CFT柱間は無収縮モルタルを充填、箱式鉄骨部は鋼材等が密に配置されている箇所へのコンクリート打設となることから、無収縮モルタル・コンクリートの充填性を把握するため、CFT柱実物大試験を実施した。
CFT柱実物大試験は、振動デバイスを利用したコンクリート充填感知システム(ジューテンダー)により確認するとともに、CFT柱上端については、コンクリート硬化後に、鋼管を切断しコンクリート内部についてはワイヤーソーにより供試体を切断し目視確認を行った(写真3~5)。
試験結果は、コンクリート充填システムと切断面の目視確認ともに、コンクリートの充填性は問題なかったが、箱式鉄骨の外側に粗骨材が均一に分布されていないことが確認された(写真6)。
これは、箱式鉄骨外側にコンクリートが上がってこなかったため、棒状バイブレーターにより振動をかけ過ぎた事が原因と考えられ、対策としてコンクリート打設時は、ある程度の高さ(CFT柱上端から95cm)まではポンプ圧送により行い、残りの箱式鉄骨側面のコンクリート打設は、人力でコンクリート投入して締め固めを行うこととした。コンクリートのスランプについては、実物大試験において1回目8cm、2回目15cmで行った結果、スランプ15cmの配合を選定した。

4.3 床版下面の仕上げについて
本高架橋の意匠は、西公園を訪れる市民にとって便利で快適な公園装置のひとつとして認知されようと意  図したものである。とりわけ床版下面の曲面は、高架橋をプロムナードにするための意匠の要であり、その出来形と表面の仕上りは本橋のみならず公園を貫く一
連の施設のイメージを左右する。したがって、コンクリート面の汚れやムラを排してプレーンな面を保持する必要がある。

写真3 CFT柱実物大試験     写真4 振動デバイス

写真5 コンクリート充填システム      写真6 コンクリート切断目視確認

その実現のため、本高架橋では底型枠脱型後にディスクサンダー仕上げを施すものとした。
施工に先立ち、ディスクサンダーの扱い方によってコンクリート表面の仕上りが微妙に異なるため、床版曲面部のモックアップ(実物大サンプル)を製作してその効果の確認を行ったが、機材を持って上向きで削り込む作業となることから作業効率と均質性について懸念材料が残った(写真7)。
そこで新たにサンドブラスト工法を試験したところ、作業効率および仕上がりが良好であったため、この工法を採用することにした(写真8)。

4.4 CFT柱の色彩について
高架橋下は公園を貫くプロムナードとする計画であり、設計競技時には上床版と歩行面はグレー系、CFT柱の色彩は常葉樹であるヒマラヤシーダの葉や幹で年間を通じて囲まれていることを意識して、深みのあるグリーングレーで仕上げることを提案していた。
実際の施工監理に関しては、DIC F-144、DIC F-93(いずれもフランスの伝統色でグリーフォンセ、ショードロン)とD55-30B(日本塗料工業規格)を選定し、モックアップ(実物大サンプル、高さ1m)を作成してその効果を確認した(写真9)。
色彩の決定に関しては、設計競技の際に選定委員をご担当された有識者を迎え、ベニア板をかぶせて影を作ったり直射日光を当てて確認しながら意見聴取を行
い、濃いグレーに少しだけ深緑の入っている印象の落ち着いた色彩であるDIC F-93(ショードロン)を採用した(写真10)。

写真7 ディスクサンダー仕上げ   写真8 サンドブラスト仕上げ

写真9 CFT柱実物大サンプル  写真10 選定委員による
意見交換会
4.5 開水路の施工
広瀬川橋りょうから西公園よう壁まで意匠上の理由から、壁高欄の外側には連続した開水路が設けられている。特に高架橋部は西公園利用者から至近距離で視認されるため、傾斜した外壁については、ブリーディング水や気泡によるあばた発生を抑制し表面部を緻密にすることを目的として透水性型枠を使用した。
透水性型枠の種類については、モックアップ(実物大サンプル、延長1.5m)を3種類製作して、その効果を確認し決定している(写真11~13)。

5.東日本大震災の影響
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(M9)の際、広瀬川橋りょうは張出架設、西公園高架橋は地中梁構築中であった。被災後の緊急点検は遠望目視で行われ柱頭部付近に水平方向のひびわれが確認されたため、詳細点検を実施した。
詳細点検は、地上部は高所作業車による近接目視点検を行うとともに、被災時の構造系は主桁が張り出し
状態のため、地震時慣性力をうけた場合橋脚基部が最も厳しく、M7クラスの地震を連続して被災している状況から橋脚基部にも水平ひびわれの発生が懸念された。そこで高水敷に設置されたP1橋脚の埋め戻し箇所を最小限掘削し橋脚基部の調査を近接目視点検と打音検査により実施した(写真14~15)。ひび割れ補修については、構造物完成(中央閉合)後調査結果は、柱頭部付近に確認された水平ひびわれ幅は、最大でW=0.3mm程度であった。橋脚基部に関しては地震に起因したひびわれは確認されなかった。

写真11開水路実物大サンプル   写真12 開水路脱枠状況

写真13 開水路仕上げ状況 写真14 高所作業車による点検

写真15 掘削による点検     写真16 ひびわれ注入状況
この詳細調査の後、工事は同年7月1日に再開している。ひび割れ補修については、構造物完成(中央閉合)後にひびわれ幅の再確認を行い、ひびわれ注入(エポキシ樹脂)を完了している(写真16)。

6.おわりに
広瀬川橋りょうは、国土交通省・鉄道関係者・大学関係者等を中心に見学会を頻繁に行っており、建設コンサルタンツ協会東北支部構造部会においても平成22年11月に実施している。
本稿は、広瀬川橋りょうの施工監理を中心に紹介したが、計画と設計については、『橋梁と基礎2013年4月号』に掲載予定なので合わせてご覧頂きたい。
最後に、施工監理を進めるにあたり、ご指導賜わっている仙台市交通局の方々に心からお礼申し上げます。
参考文献
1)木村・菊谷:仙台市高速鉄道東西線広瀬川橋りょう他設計競技,橋梁と基礎Vol41-8,2007.8
2)畑山・寿楽:新しい構造デザインを求めて~仙台市高速鉄道東西線広瀬川橋りょう他設計競技に参加して~,Consultant(建設コンサルタンツ協会機関誌),2008.1
3)寿楽・畑山・森・菊谷:橋梁設計競技選定案の実現に向けた取組み~仙台市高速鉄道東西線広瀬川橋りょう詳細設計~,土木学会第64回年次学術講演会,2009.9

写真17 広瀬川橋りょう全景(平成25年2月)

写真18 西公園高架橋全景(平成25年2月)